ロシア・プーチン政権によるウクライナ軍事侵攻に抗議し、即時撤退を求める
去る2月24日のロシア・プーチン政権による突然のウクライナへの軍事侵攻は、その後ますます拡大し、市民の住居や生活手段、社会環境、学校教育研究施設、図書館、病院、歴史的な文化遺産を破壊し、国土自然を破壊し、多数の人々の生命を無差別的に奪っている。国際法上禁じられている原子力施設への攻撃や大量殺傷兵器、ミサイルなどの最新兵器が投入され、今や核の使用を懸念させており、戦争犯罪史上に明瞭な足跡を刻みつつある。核の使用はもとより、通常兵器でも無差別大量殺傷は許されざる人類史的犯罪である。
今回のロシア・プーチン政権による軍事力行使は、地域や国際間の紛争は平和的手段と対話で解決を図るという人類の歴史的知恵を真っ向から否定する蛮行であり、領土や政治的独立をめぐる国際間紛争に武力行使を用いないという国連憲章にも反するものである。直ちに軍事侵攻を停止し、すべてのロシア軍事部隊をウクライナ国土から撤退することを求めるものである。
2月24日にはロシアの科学者と科学ジャーナリストは、いち早く声明を出し、プーチン政権の軍事侵攻に反対し、平和解決を要望した。学会・大学などの多くの科学者団体、さらにはフランス科学アカデミー、ドイツ科学アカデミー、イタリア・リンチェイ国立アカデミー、イギリス王立学会(Royal Society)、アメリカ国立アカデミー、カナダ王立学会(Royal Society)、日本学術会議など多くの国の科学者の代表機関も、ロシア・プーチン政権の軍事侵攻に抗議している。同じく一部のノーベル賞受賞者たちは、ロシア軍隊の撤退を要求するとともに、ロシアの安全保障関係は国連憲章やヘルシンキ協議最終勧告(1975)、パリ憲章(1990)の枠組みの中で対処できることを指摘するとともに、今回の軍事侵攻が今後長きにわたってロシア国の評判に汚点を残しロシア国民に大きな打撃を与え、ロシアとその他の世界に壁を築くことを懸念している。
科学者は自然科学、社会科学、人文科学を問わず、過去、多くの紛争の中でも、平和的志向が確認される限り国際間の科学交流・協力の試みを続け、紛争解決と平和を望んできた。それは、科学が人類にとって普遍的意義を有すること、しかしそれにもかかわらず、科学の軍事的利用と行使が武器を先鋭化させ、破壊の規模を拡大させ、ますます多くの市民の生命を奪い、同時に科学的営みの土台である社会を破壊するとともに科学者の生命をも奪ったことを知っているからである。人類社会の存続、社会の中で生を営むすべての個人にとってと同様、平和は科学の発展にも不可欠である。
歴史的には、核兵器の使用禁止、軍事不拡大の願いの実現が、必ずしも順調に進んでいるわけではない残念な実情が背景にあるにしても、今回のウクライナ軍事侵攻は、ウクライナの主権と国民の生命を武力によって一方的に踏みにじる許し難い行為である。
また、他方ではロシア国内でのフェイクニュースや言論弾圧による社会破壊、科学者への弾圧を懸念すると同時に、ロシア以外の諸国においてロシア人に対する差別行動や社会的排外が進むことを懸念する。プーチン政権の軍事侵攻に反対し平和を希求する多くのロシア国民と科学者がいることも報じられている。彼らとも連帯し、ウクライナの社会と国土、平和と文化をウクライナの人々に回復する道を探らなければならない。
まずは、ウクライナの主権を侵害し、人々の尊厳や生命と財産、社会と国土を破壊するのみでなく、ロシア自身と全世界とに大きな破壊的結果、新たな分断をもたらす今回の軍事侵攻を直ちに停止し、ロシア軍のウクライナからの撤退を強く求めるものである。
2022年3月21日
日本科学史学会会長 木本忠昭