(2013年度-2016年度) 板倉 聖宣

itakura 2013年度-2016年度 板倉 聖宣

日本科学史学会会長就任の挨拶

私はもともと,科学教育/理科教育の分野で科学史研究の成果を活かしたくて研究してきた人間です。ですから,私にとって科学史の研究と科学教育の研究とは別々のものではありません。「私の主要な問題関心は,科学の教育/普及に向けられている」とは言っても,科学史研究のほとんどあらゆる問題は,今なお私の関心領域となっています。したがって,科学史学会の会長という仕事は,私個人にとっても有意義な仕事だと思っていますので,今後協力させて下さるようお願いします。  幸いなことに私は,今から丁度50年前の1963年 8月に提唱した「仮説実験授業」は,我ながら大きな研究成果を挙げることが出来たと思っております。それで,それ以後は「仮説実験授業研究会」という独自な研究会を組織して,科学史学会とは別に,科学史の研究をもとにしつつも科学教育の研究を中心にきたのでありますが,その研究会の会員数は現在1300人ほどになっております。  科学史学会と仮説実験授業研究会とは,会の性格からして大きな違いがありますが,私は「これまで仮説実験授業研究会を組織運営してきた経験を,学会の組織運営の活発化に活かすことができるかも知れない」とも考えています。そこで,来る9月1日には,神田駿河台にある明治大学の講堂で,私個人の「科学史研究の成果」と「科学教育研究の成果を結合したら,どういう展望が開けそうか」というかなり纏まった話をさせて戴けるよう,日程などを検討しています。  「科学史の研究」というのは,もともと「しばしば〈天才的〉とも称せられる優れた科学者たちの創造的な研究の社会的/個人的な研究生活」を個人史/社会史的に追求することを中心に行われてきました。しかし,「そういう〈天才的〉とも称せられる科学者たち」だって,先駆者たちの研究成果を学んで初めて,自分の〈新発見〉を科学史の上に積み上げることができる」ということに注目すると,〈科学史の話〉と〈科学者たちの受けてきた教育〉とは不可分に結びついていることが明らかになります。「後の世代の科学者たちにとっては,〈先行する科学者たちの研究成果〉をどのように学び知ったか」ということがとても重要な意味をもっているのです。  私は,〈自分の研究している仮説実験授業〉の話をすると,しばしば「そうか。あなたは,一種の〈発見学習法〉の開発を目指して研究しているのですね」と言われたものです。私は,そういう質問に半ば肯定的に答えることにしているのですが,多くの優れた科学者というのは,「先行研究者の発見してきたことを〈再発見〉して,先行研究者と同じスタートラインに立つのだ」とも言えるのです。私が科学史研究が好きな理由の根本的な理由は,「〈優れた科学者たちの研究の道筋〉を辿っていくと,〈真に創造的な考え方〉を発見できて,〈自分も頭がよくなった〉と思える」ことにあります。そういう「〈科学史〉と〈科学教育〉の密接な関係について,多くの科学史的な実例を引きながらお話できたらいいな」と思っています。

板倉  聖宣(2013.7.9)