日本科学史学会からのお知らせ

注目

●会員向け『科学史研究』『科学史通信』等刊行物の郵送につきまして

先日、科学史通信460号・科学史研究2025年1月号(No.312)を会員向けに発送いたしました。お手元に届いていない場合は、お知らせください。

今回発送の封筒には、2025年度年会費の払い込み取扱票が入っております。本学会は前納制をとっておりますので、会費納入をお願いいたします。

●2025年度総会・第72回年会のお知らせ

2025年5月24・25日立命館大学大阪いばらきキャンパスにて開催予定

2024年度「科学史学校」も、引き続きオンラインにて開催します。

2024年度(第37期)科学史学校のご案内

『科学史事典』(丸善出版)を発売中です。

丸善出版へのリンク

2025年4月19日(土) 第129回 東海支部例会のご案内

日時:  2025年4月19日(土) 13:30~17:00

場所:  労働会館2階(入口に表示があります)

発表者、内容:

『東海の科学史』第16号の合評会(執筆された方々からご報告をお願いします)

◇『東海の科学史』第16号の内容(敬称略)

山中千尋:帝国学士院の学術奨励事業における寄付金の意義―〈学〉と〈民〉の関係性をめぐって

保阪秀正:L.オイラーの時代のロシアの数学教科書の変遷について 

菊谷秀臣:学問の自由と違憲審査権          

西谷 正:ノーベル賞への一ケ月――小林・益川の六元モデル 

奥田謙造:名古屋大学「坂田昌一記念史料室」の資料の紹介-最近の所蔵データの分析より       

溝口 元:記録資料「岡田要先生百年の会1991」を巡って      

高山 進:「基本のキ」から考察する気候危機打開論~3つの講演からの気づきの過程  

高田達男:東海の飛行場 アジア太平洋戦争における東海地方の航空機工場と陸海軍の飛行 

財部香枝:明治初期における気象観測の国際協力について

地図:

労働会館 所在地  本館 名古屋市熱田区沢下町 9-3 (TEL: 052-883-6974)

(説明)地図にあるように、金山駅から線路沿いに来ていただければ分かりやすい所です。しかし、線路が2つに分かれていますから、気をつけてください。金山駅の東出口(名鉄。JR)からだと間違いないでしょう。JR東海道線と名鉄本線が平行に走っています。くれぐれも、中央線と間違われないように気を付けて下さい。行く手に陸橋があります。その下を越えるとセブンイレブンがあり左に曲がると、すぐ労働会館の本館があります。1階に掲示板があります。歩いて10分ぐらいです。

連絡先: 高山 進  TEL(携帯): 090-7432-9971

2024年12月7日(土) 第128回 東海支部例会報告

日時 :2024 年12月7日(土) 13:30 ~ 17:00

場所 :労働会館

発表者・内容

 1.松野 修氏:「科学教育者としてのロバート・ボイル——R.ボイル著『空気ばね論 続編 第1部』(1669 年刊)に記述された空気ポンプと実験の再現をとおして——」

    2.山中千尋氏:「帝国学士院へのまなざし ー日本の学術研究体制の原型をさぐるー」

参加者:11名

連絡先 :名古屋市天白区植田西2丁目220  菊谷秀臣  TEL:090-7306-2518

イベント情報「みんなの電話」(静岡文化芸術大学)

静岡文化芸術大学 デザイン学部より電話の歴史についてのイベント開催の連絡がありましたので、掲載いたします。

日程:3月22日(土曜日) 午後2時から午後5時

会場:本学 西エントランス ギャラリー前のスペース

(参加人数に応じて会場が変わる可能性があります)

詳細は下記のページをご覧ください。

https://www.suac.ac.jp/event/03664/

「板倉科学史・科学教育研究会」の3/4月案内等

多久和俊明会員より、研究会の案内がありましたので、掲載いたします。
(以下ではメールアドレスの@は「アット」に変えてあります。)

● 科学史と科学教育の研究会

自由闊達な情報交換・話し合い・研究のオープンな研究組織をめざして

                                             多久和俊明

●3月~4月の研究会・コロキウム・談話室

※  ここに記した会は,すべて参加費0円です。

4月6日(日)  8:50~12:00ごろまで 

 ・資料は, 3日前の木曜日までに,添付送信してください。

 ・事前に申し込まれた資料にしたがって,発表と検討をしていきます。

  ・発表される方は,「何を」,「どこを」検討して欲しいのかを明確にして下さい。

※ 資料を募集します。資料のない方の参加も歓迎です。

※ 興味のある方は,佐藤正助さんsatomasasukeアットgmail.comに連絡して下さい。

○3月2日(日)の研究会の発表の報告(敬称略)          

・兼子美奈子:「ロバート・オウエンについて」           

・佐藤正助 :「再生可能エネルギーを探る 〜 自然エネルギーとの関係から」

・多久和俊明:「吉川徹著『ひのえうま』「どうなる令和のひのえうま」についての批判的評価」

  今月は3人の発表でしたが,今回も根底ではどこかがつながっていたり,関係していることが共有されたり,有意義な話し合いができました。オウエンの平等概念が時代を超えたものであったこと,再生可能エネルギーと自然エネルギーとは本当はどんな関係ないのか,今私たちはどう考え,どう認識しなければならないのか,また『ひのえうま』はポリコレ,基本的人権,女性の人権,差別,ヒューマニズムと深くつながっていることがわかったように思います。互いの研究からたくさんのことが学べ,率直に意見が交換できたように思います。科学的に考え,研究し,何でも話し合うことからはじめたいです。そして何よりも科学的認識が本当に身につく授業の普及が必須だと思います。

  参加いただいたみなさまに心より感謝申し上げます。参加者6名

●  さらに情報交換や研究をさらに自由に促進するために,科学史と科学教育の研究会の

オンライン「談話会」を開いています。次回は,

3月25日(火)夜7時~9時  (※第4週火曜日)   参加希望の方は多久和にメール

下さい。 mxrhp118アットyahoo.co.jp

                                       

● 科学史と科学教育の研究会の オンライン「コロキウム」

3月15日(土)13:00~ 17:00 

仮説社とZOOM併用でやっています。時間的な制約や進行等はゆるやかですので,じっくり検討したい,話し合いたい場合はとくにおすすめです。気楽に参加下さい。参加希望の方は多久和にメール下さい。 mxrhp118アットyahoo.co.jp

2025年3月29日日本科学史学会技術史分科会 春の研究会のお知らせ

日本科学史学会技術史分科会では、科学論技術論研究会との共催で、 下記の通り研究会を開催します。皆様ふるってご参加ください。

●日本科学史学会技術史分科会(科学論技術論研究会共催)春の研究会

▼日時:2025年3月29日(土)13:00-17:00
▼報告者:
・水沢光(国立公文書館)「日本の戦時科学技術動員体制: 軍産学連携と研究助成の制度化」  
※参照:『日本の戦時科学技術動員体制: 軍産学連携と研究助成の制度化』(吉川弘文館、2024年)
・山崎文徳(立命館大学)「航空機産業の技術競争力と認証制度」  
※参照:『航空機産業の技術競争力と認証制度』(晃陽書房、2025年3月刊行予定)
▼開催形態: 対面&オンライン(Zoom)
・対面会場: 立命館大学大阪いばらきキャンパス  B棟4階 B413 研究会室(JR茨木駅 最寄)  
参加を希望される方は、こちらのフォームをご記入ください。 https://docs.google.com/forms/d/1oHMG83YvVd97dq80NDR2j8VwsehLZuQ7pQJ56iF3VW0/edit?usp=sharing_eip&ts=67bd5ac6&sh=bosVmWSOQj9E0DXT&ca=1
▼連絡先:岡田大士(中央大学) daishi(後ろに@home.nifty.jpをつける)、
山崎文徳(立命館大学) yama2012(後ろに@fc.ritsumei.ac.jpをつける)
※Googleフォームが入力できない場合は、上記メールアドレスにご連絡ください。

2025年4月26日(土)午後2-4時「科学史学校」のご案内

2025年度(第38期) 「科学史学校」も引き続きZoomのオンライン開催で、事前申込(無料)、会員以外のどなたでもご参加可能です。Googleフォームから参加申し込みをしていただくと、前々日にメールでZoomのミーティングIDとパスコードが送られてきます。

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◆2025年4月の科学史学校の参加申し込みリンクは以下となります。4月24日(木)正午12時までにお申し込みください。

https://forms.gle/XoZ9rrFLUVgoBThw8

2025年4月26日(土)午後2-4時
平井 正人 会員(東京大学)
「ダーウィン以前の「生物学」―アンリ・ブランヴィルとその周辺」
昨今の生命科学史研究では、科学としての生物学の発展を妨げる「障害」とラベリングされてきた生気論(vitalism)や自然哲学(Naturphilosophie)が、通念に反して、生物学の出現において果たした役割が再評価されている。本講演では、最近の研究動向を概観するとともに、キュヴィエの後釜として「フランス生物学」を牽引したものの、後に忘れ去られた「生物学者」アンリ・ブランヴィルの業績を紹介する。

2025年度(第38期)「科学史学校」のご案内

2025年度(第38期)「科学史学校」も引き続きZoom のオンライン開催となります。事前申込(無料)で、会員以外のどなたでも参加可能です。Google フォームから参加申込みをしていただくと、前々日にメールでZoom のミーティングID とパスコードが送られてきます。開催時間は午後2時~4時です。

◆2025年4月の科学史学校の参加申し込みリンクは以下となります。前々日の4月24日(木)正午12時までにお申し込みください。

https://forms.gle/XoZ9rrFLUVgoBThw8

2025年4月26日(土)午後2-4時
平井 正人 会員(東京大学)
「ダーウィン以前の「生物学」―アンリ・ブランヴィルとその周辺」
昨今の生命科学史研究では、科学としての生物学の発展を妨げる「障害」とラベリングされてきた生気論(vitalism)や自然哲学(Naturphilosophie)が、通念に反して、生物学の出現において果たした役割が再評価されている。本講演では、最近の研究動向を概観するとともに、キュヴィエの後釜として「フランス生物学」を牽引したものの、後に忘れ去られた「生物学者」アンリ・ブランヴィルの業績を紹介する。

2025年6月28日(土)午後2-4時
金 凡性 会員(東京理科大学)
「紫外線の科学史」
紫外線は目に見えない存在でありながら、科学・技術と社会・文化との関係を可視化してくれる存在でもある。紫外線に関しては、医学や物理学、畜産、電気やガラス、建築など幅広い科学・技術の領域がかかわってきたが、その一方で、社会・文化的な環境の中で紫外線のイメージも変容してきた。今回の講演では、主に拙著『紫外線の社会史-見えざる光が照らす日本』(岩波新書、2020年)の内容を紹介することにする。

2025年8月30日(土)午後2-4時
渡邊 洋之 会員(龍谷大学)
「外来魚ブルーギルはなぜどこにでもいるのか、そして歴史家はその理由をどのように探り出すのか」
北米原産の淡水魚ブルーギルは、今や日本全国で普通に見られるものとなっている。そしてそのような状況に至った理由については、根拠不明なものも含め、さまざまに語られている。今回は、その分布拡大の過程の実際について説明するとともに、それをあきらかにするためにどのような探求をおこなったのかについても、史料を明示しながら紹介していくことにしたい。

2025年10月25日(土)午後2-4時
小長谷 大介 会員(龍谷大学)
「中間子論への道程―史料から読みとく若き日の湯川秀樹」
2025年が国際量子科学技術年であることにちなみ、若き日の湯川秀樹(1907-1981)が量子力学とどう向き合ったかに触れながら、中間子論にいたるまでの道程を再考する。この道程は『旅人』『湯川秀樹日記』等の文献で知られるが、京都大学基礎物理学研究所湯川史料室には、量子力学の理解に苦しむ様子や、大阪帝国大学赴任にともなう研究環境の変化などを示す史料群が存在しており、これらの史料をあらためて読みとき、ノーベル物理学賞を受賞した中間子論にいたるまでの過程を考察する。

2025年12月6日(土)午後2-4時
坂本 卓也 会員(佐賀大学)
「幕末期における西洋科学技術の導入への葛藤―加賀藩での蒸気船購入を事例に―」
幕末期の日本では、最新の西洋科学技術として数多くの蒸気船が欧米諸国から購入されている。それらの多くは、幕府や諸藩が、海防という軍事的な目的で獲得したものであったが、藩によっては、外国から蒸気船を購入することに反発の動きも見られた。本報告では、加賀藩(前田家)が蒸気船を所有するまでの藩内での様々な葛藤と、購入前後での運用構想の変化について、拙著『幕末維新期大名家における蒸気船の導入と運用』(佛教大学、2022年)をもとに紹介する。

2026年2月28日(土)午後2-4時
工藤 璃輝 会員(神戸大学 日本学術振興会)
「アイザック・ニュートンの音楽研究と科学」
科学と音楽という二つの題材には全く関連がないように思われるかもしれませんが、少なくとも科学革命期のヨーロッパにおいてはそうではありませんでした。デカルト、ケプラー、ガリレオ、フック、ホイヘンスなど、科学の発展に大きな貢献をしたとされる人々のほとんどが、多かれ少なかれ音楽について考察していたのです。この講演では特にアイザック・ニュートンに焦点を当てて、彼の音楽研究と科学との接点についてお話しします。

2024年度春科学史・若手研究懇談会のお知らせ

猪鼻真裕会員より、科学史の若手研究者で、研究活動の活性化や交流のため、研究懇談会を開催するとの連絡をいただきましたので、ご紹介いたします。

1. 開催日  2025年3月23日(日)
2. 目的   ① 研究の進捗を発表し、フィードバックを得るという経験を積む
      ② 若手研究者同士で研究情報の交換を行い、親睦を深める
3. 場所   一橋大学 東キャンパス
4. 参加方法 以下のGoogle Formからご回答ください
       https://forms.gle/HuuUuL16tuZszUhq9
5. 発表申込締切 2025 年3 月3 日(月)
※ 教室のキャパシティやプログラムの関係で、一定の定員に達し次第、締切前でも申し込みを終了する可能性があります。宜しくご承知おきください。

概要PDFをダウンロードする

(会長声明)日本学術会議は真の独立性と自律性の確保を― 改革について訴える ―

日本科学史学会会長 木本忠昭
2025年2月4 日


 昨年12月20日、政府設置の「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」は「世界最高のナショナルアカデミーを目指して」なる最終報告書(以下「報告書」)を出し、日本学術会議は、そのわずか2日後に臨時総会を開催、「報告書」の改革案に対して政府の財政支援があることを根拠にする肯定的意見と共に、独立性は不可欠で監事と評価委員の大臣任命は認められないという反対意見が出された。しかし、光石学術会議会長は、「報告書」改革案議論には「一定の意義がある。日本学術会議のこれまでの主張・・・点は反映されていない点もある」が、「今後法制化過程でさらなる検討の余地がある」とする会長談話を発表(22日、総会開催日)し、現在日本学術会議執行部は政府と法人化の協議を試みているとみられる。


 日本科学史学会は、科学の歴史を研究し、また今後の科学の在り方や科学政策、科学と社会との関係にも強い関心をもつ多くの会員を有するところから、日本学術会議の歴史や、その在り方、そして現在の改革動向にも強い関心を持つものである。事実、日本学術会議は後述するように、戦後日本の科学の復興と発展に大きな影響を及ぼし、重大な役割を果たしてきた。その在り方次第によっては、今後も日本の科学の発展の仕方に大きな影響をもつと考えられる。


 日本学術会議(以下「学術会議))は、1984年までの会員直接選挙制から、翌1985年(第13期)からの学協会基盤の推薦選考制、2005年(第20期)からのコ・オプテーション(現会員による新会員の推薦と選考方式)と、2度の大きな改革を経て現在に至っているが、そのいずれの改革を通じても、共通して維持されてきたのが、政府からの独立性であった。2005年改革でも、法的には会員は首相任命となっているが、これは形式的なものであり、学術会議側が選出した会員候補を、学術会議の独立性を損なわないよう首相がそのまま任命することが、立法時に担当大臣からも繰り返し説明されている。

 この独立性によって、日本学術会議は自律性をもち、学問の自由をまもり、敗戦後の困難な社会状況の中からの平和的再建、共同研究施設の設置や、原子力平和利用の指針、大学改革関連の多くの提言、科学の軍事利用拒否、独自の科学者国際交流などで大きな役割を果たすことができた。だが、2020年に当時の菅政権が6 人の会員候補に対して任命拒否を行い、これは重大事として国内外の研究者コミュニティから批判を浴びた。1000余りの学協会からの批判や任命要請の声明、法政大学・東京大学・一橋大学などの学長や大学関係機関・関係者の声明が発せられた。日本弁護士連合会と全国の殆どの弁護士会も声明を発した(芦名他『学問と政治』p9)。法学者からの反応も強かったのは、アカデミーの独立性は日本国憲法第23 条が規定する「学問の自由」の最上位の段階を示すとの理解が一般的であるからである。
 今回の「報告書」改革案は、表面的には独立性や自律性の重要性やコ・オプテーションの維持などを謳い、一見したところ、任命拒否で受けた各界からの批判や、学術会議の主張を考慮しているようにみえる。だが、詳細を確認するとそうとは言い切れない。むしろこの改革案が実施されれば、学術会議は大きく変質し、その結果は「報告書」の言う「世界最高のナショナルアカデミー」などからはほど遠い、時の政治に追随する行政的組織に成り下がるという懸念を強く持たざるを得ないのである。
 学術会議が戦後一貫して維持してきた独立性と自律性を捨てかねない重大な問題を提示されて僅か2日の期間で十分な検討が学術会議総体でなされたものか懸念せざるをえない。


 「報告書」改革案の大きな問題点は次のような点にある。まず、活動的には「ボトムアップ」の活動を排し、中期目標を定めさせ、その運営の評価と監査を行う委員を学術会議の外部から政府が任命する(監事は首相任命、評価委員会は大臣任命。いずれも法定。)という仕組みである。これを「報告書」改革案は、国が財政支援を行う以上合理性があるとするが、このような仕組みは、明らかに学術会議の活動の独立性を脅かすものであり、多くの地方国立大学を貧困状態に追い込んだ大学独立法人化政策を彷彿とさせるものがある。大学の自治・大学の自由の強化を標榜した大学独立法人化は、中期計画を立てさせる仕組みでより政府の意に沿いやすく、政府の大学格差政策と相俟って今日地方大学は無残な貧困状態にあり、総体として日本の大学水準は落ち込んだ。
 同様に、今回の学術会議改革案でも立案させられる中期的な活動方針が、予算請求の根拠及び評価・監査の基準となり、「運営助言委員会及び評価委員会の意見を聴くことが担保される」仕組みによって、学術会議の活動は政府のコントロール下に置かれ、その自律性は損なわれるという危惧は払拭することはできない。そのような学術会議の活動からは、短期的な政治的経済的政策の制約から免れ、長期的人類史的視点に立った客観的な分析という科学者独自の特性を発揮することはできまい。


 改革案のもう一つの大きな問題点は、会員選出方法の大幅な変更である。改革案によれば、会員選考方針は、外部意見を聴くことが法定で担保されるとある。というのも、会長任命ではあるが会員以外の委員を含む選考助言委員会を設ける仕組みだからである。この外部意見は相当強力な(作用機序)しかけ・からくりとなろう。つまりは、外部意見を強く反映する選考方針によって現行の学術中心の選考基準は「特別な選考方法でvery best の観点からオープンかつ慎重に幅広く」(第15 回日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会配布資料10、令和6年12 月18 日)という政府の意を汲んだ、特定課題を志向する「ミッション型の選考」を行うという。
 2026年に立ち上がる法人化された日本学術会議には、誰が選ぶ主体となるのかは最終報告書には明示されていないが、新規増員の会員だけでなく全領域の全体の会員をこの方針で選び、このプロセスを経ない会員は、残存任期は残れるものの、「爾後の会員選考に係るコ・オプテーションには参加しない」(「報告書」p. 19)とする。つまり、新生の法人化設立時における何らかのスクリーニングを経ない会員には次期会員選考に関わらせないという方針がはっきりと表明されている。このような選考が実施されれば、法人化自体が一部の会員を実質上任命拒否に等しい状態に追い込むために利用されかねない。こうして、政府は2020年までは憲法や学術会議関連法を無視して新期会員の任命を個別的に干渉しようとしていたのが、今や個々の会員を個別に任命拒否をするのではなく会員全体を選び直し、学術会議を総体的に変質させようというのが今回の改革案の究極の狙いであることが明らかとなろう。さらに、現行のコ・オプテーション制度には散々文句を言いながら、外部意見を入れた選考方針でスクリーニングされたあとの新期二期目以降の会員選考をコ・オプテーションで行うことには問題はないと理由もなく言う。ここには会員をスクリーニングするという意図が露骨に示されている。
 こうして、リセットされた学術会議は、その表面的な主張とは裏腹に、これまで学術会議が大事にしてきた独立性と自律性を大きく損なって、例えば「総合科学技術・イノベーション会議」の下請的機関に成り下がるのではないかという懸念を強く持たざるを得ない。これでは、とても世界最高のナショナルアカデミーにはなりえないであろう。


 人類史的視野からの科学の発展、社会福祉・環境・人間尊重の立場からの科学と社会との相互関係の構築に寄与しうるナショナルアカデミーを創るには、「報告書」改革案のような見せかけではなく、真の独立性と自律性をもつ科学者組織が求められることを直視するよう、強く訴えるものである。
 過去には、政治からの独立や自律性の不十分さから、いわゆる「原子力ムラ」や原子力「安全神話」、そして新型コロナウイルス対策でも、科学者の関与形態など科学者の倫理問題が問われる歴史を経験したことも忘れるわけにはいかない。科学が短期的視野の政治に負ければ、感染者の増加の一因にもなり、国民被害は増大しかねない。今後、大地震の到来や激化する気候変動等のなかで科学と政治の問題はますます密接に、かつ深刻になることが考えられる。科学組織が独立性を保ちながら適切な助言機能を持つか、政治の婢になる形で奉仕するかは、大きな分かれ道である。政治的に左右され続ければ、科学研究に不可欠な自由で多様な、批判的な意見を排除しかねず、それは中長期的に見れば社会的に有意義な助言ができないばかりか、科学自身の発展をも制約することになろう。科学は日本の人びとはもとより全人類のためにあることを今こそ銘記しなければならない。過去の失敗の歴史を繰り返さないためにも、時の政治に左右されず自律的な活動を展開し、日本社会と世界に寄与しうる学術会議であることを強く望むものである。


(注:本声明は日本科学史学会全体委員会の意を受けたものである)