日本科学史学会会長 道家 達將 (どうけ たつまさ)
ごあいさつ
はからずも日本科学史学会の今期会長の任を負うことになりました。昭和3年8月の生まれです。2年間この重任に耐えきれるかどうか心配ですが、真剣に取り組む所存です。
私事で恐縮ですが、私が、科学史・技術史に興味を覚えましたのは、第二次世界大戦が終って程なくの旧制の高校(八高)生時代(1945-48)で、非常勤講師の菅原仰さんの科学史の講義を聞いた頃からでした。問題意識を持つ原因は戦中の体験の中にありました。しかし、渦中にありながらそれが何であるのかを考える力はなく、戦後の高校時代になって漸く、飢えた獣がむさぼるようにひたすら本を読み、学友と議論することではじめて力を得ることができました。
その後、名古屋大学理学部化学科で化学を学び、研究実験も楽しみ、江上不二夫教授の許で生化学を専攻しました。先輩諸氏に助けられて硝酸還元酵素を利用した硝酸の微量定量実験に成功したことが、私の科学史研究への道に力を与えてくれました。
科学史の研究を本気になって始めたのは、学部を卒業してからで、名古屋大学理学部物理学科のW研(Wissenschaft研究室、教授:坂田昌一、有山兼孝、講師:菅原仰)の研究生に入れて頂いた時からでした。(その後、私は東京工業大学人文系の歴史、次いで科学概論研究室に転じました。)
名古屋大学理学部は、科学史に関心の高い先生方が多く、初代理学部長の柴田雄次教授をはじめ、江上・坂田・有山教授はもとより山崎一雄教授や高林武彦助教授ら、各分野で活発な先端的研究をしておられる方々が多数、日本科学史学会の会員であり、活躍しておられました。京都大学の湯川秀樹教授も会員で、名大での科学史学会の集まりに顔を出され、若い会員たちとの歓談に加わられました。
かつて、これら教員と学生・院生が、教室や実験室で科学史・科学方法論・科学の社会的機能などについて、自由で活発に和気あいあいと論じあっていた姿を思い浮かべるにつけても、これらとこの理学部から4人のノーベル賞受賞者が生まれたこととは決して無縁ではなかったと私は思います。
現在の科学史学会の会員の方々の研究分野は実に多岐に渡っていますし、会員も、若い人びと、それも海外からの留学生の方々が徐々に増加しています。つまり大きくなっています。それでいて、学会を取り巻く状況は、経済的問題ひとつをとってみても容易ならざるものがあります。その中で、学会は近く創立70年を迎えます。
私は、学会会則第2条、第3条の内容を円滑に進展させるよう、委員、会員の皆様とともに、問題点を調べ、解決策を工夫し、皆様の研究が発展するよう努力します。
皆様、どうかよろしくお願いします。